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INTERVIEW

OUR VISION

feat. OB

shinjuku 22:17 october 23, 2018

Taxi
Prologue- プロローグ -
「全然、この街は変わらないな……」。そこそこの金はあるけど夢と時間はない女デザイナー・遠藤由依は、8ヶ月の外部での修行を終えて西新宿・ADWAYS本社に帰ってきた。外部で学んだ経験を会社で活かして、世の中により良いデザインを発信したい。打ち合わせ帰りにタクシーに乗り、窓の外を見ながらそう遠藤は意気込んでいた。しかし、隣の座席に座っている上司との間には沈黙が流れていて……。

Cast

キャスト

Endo Yui
Endo Yui | 遠藤 由依
Adways Inc. | Service Development Group Creative Division General Manager
文中表記 | えんどー
Yamada Sho
Yamada Sho | 山田 翔
Adways Inc. | Board of Directors Executive Officer
Bulbit Inc. | Chief Executive Officer
文中表記 | やましょー
Taxi

10月23日 22時17分 都内某所にて

Endo Yui

つい先日私は、8ヶ月の外部での修行を終えて、新卒で入社した株式会社ADWAYSに帰ってきた。いわゆるインターネット広告企業であるADWAYSとは、かれこれ10年近い付き合いとなる。今やADWAYSのクリエーターは全社で100人ほどになるが、デザイナーとして新卒で入社したときには、100人近いクリエイター組織のリーダーとして部署をまとめるような人間になるとは思っていなかったし、ましてやこの年齢になっても“やりたいこと”があるなんて思いもしなかった。

Yamada Sho

ちょっと距離が空いているけど、隣に座っているのは、金髪・メガネがトレードマークのやましょーさんだ。この人は思い立ったら即行動をモットーとしている人間であり、(と私は思う)8ヶ月前、ある会社の社長との飲み会の席で「あの、こいつを社長のところで修行をさせてもらえませんか」と唐突に言って私をその会社に送り込んだ張本人だ。それから8ヶ月間、結局私はその会社で働くことになった。

外の会社がどのような環境で、どんな仕事をしているのかを知りたかったので、これはこれでいい機会だと思った。ただ、デザイン会社として第一線であったその会社に一時身を置いた私には、帰ってこないという選択肢もあったはずだけど、私はちゃんと“帰ってくる理由”を持ってきて西新宿に戻ってきた。

こんな雑な経緯なのに、送り出した部下が経験を積んでちゃんと自分のもとに戻ってきたのに、やましょーさんは、「最近忙しくて」と言いながら仕事の話をしようとしない。この日はたまたま二人で行かなければならない打ち合わせがあったのだが、移動中はずっとスマホをイジりながら忙しそうにしていた。

私はこれからADWAYSでどんな仕事をしていきたいのか、フラットに話をしたいのに。

Taxi

運転手:「お客さん。お二人のお仕事は、IT関係とかですか?」

急にタクシーの運転手が“私たち”に話しかけた。ちょっと道も混んでいるし、眠気覚ましにちょうどいいのかもしれない。「IT関係」と絞り込んだのは、このあたりでタクシーに乗る人にIT関係者が多いのだろう。

Endo Yui & Yamada Sho

えんどー:「まあ、そうですね。もしかしたら運転手さんも、私たちが作った広告をスマートフォンで見たことがあるかもしれません」

当たり障りない回答を運転手に伝えた。運転手との会話は、続けてもここで終わってもどっちでも良かった。

Taxi

運転手:「へえ。どんな広告ですか。私、広告のデザインとか、結構気になっちゃって見ちゃうんですよね

ここまで突っ込んでくるのは珍しい。この運転手、私達の仕事にちょっと興味があるみたいだ。せっかくなので少し喋ってみようと思い、私はこう続けた。

えんどー:「日本ではまだ、デザイナーの地位が低くって。それを変えていけるような広告を、私は作っていきたいと思っているんです」

どんな広告かと聞かれたのに、あまりにも抽象的な答え方をしてしまった。とはいえ運転手は何も間違っていないと言うように返事を返してくれる。むしろ私の想像の斜め上の質問を送ってきた。

運転手:「そうなんですか。それはすごいですね。あ、でもどうしてデザイナーの地位が日本では低いのですか?

えんどー:「えっと、それは……」

私の言葉が詰まったのは、その答えは“少し考えたい”と思ったからだ。修業先ではなく、ADWAYSでその疑問を解決したいと思うほど、この答えは時間を使って取り組みたい案件なのである。ここでやすやすと喋ってやましょーさんに煮詰まっていない内容を聞かれるのは、私にとって都合が良くない。そう思っていると、もうひとりの後部座席に座っている人が口を開いた。

Yamada Sho

やましょー:「日本におけるインターネットを利用したプロダクトやサービスって、以前からシステムは大事にされている風潮はあるんですけど、デザインは重要視されていなかったんですよ。しかもスマホ以前の日本って、自分たちの国のサービスしか使われていなくて。2010年位を境に、スマホで海外のサービスを使う人が増えて、「こういうデザインの方が使いやすいよね」と思う人が多くなった。そこからデザインに拘らなきゃという気持ちが出て来たんです」

Endo Yui & Yamada Sho

えんどー:「急に話に入ってきた」

え。なんなのだろう、この人は。さっきまでずっとスマホをイジっていたのにもかかわらず、いきなり私とタクシー運転手の会話に入ってきた。確かに運転手は最初に“お二人は”と話しかけたが、完全に今は私と運転手二人の会話だろう。合コンだったら絶対に次に呼ばれないやつだ。

やましょー:「だから最近なんですよ。プロダクトやサービスにおけるデザインが重要になってきたのって。そこからまあ、いろんな企業がUI/UXデザインに力を入れている中で、今回ADWAYSもデザインの力で課題解決に取り組むことになったんです」

運転手:「そうだったのですね。でも、スマートフォンの人気が出てから今まで空白の期間があったと思うのですが……。どうしてこのタイミングなんでしょうか?

Taxi

このタクシー運転手、どういうわけかかなり的を射た質問をしている。良い機会なので、私も負けじとこの会話に入っていくことにした。

えんどー:「デザイナーの立場で伝えるならば、納期が厳しくなると同時に、デザイナーに対する扱いも荒くなってくることがあったんです。あまり効果が出なかった広告のデザインを担当した時など、どうしても責任を感じてしまうこともあって。時間が無かったとか、要望が分かりにくかったとか、そういった言い訳はできませんからね……。」

「また昔、プロダクトに関わるデザイナーは“ただ言われたもの”を作るっていうことが多かったんです。例えば、色々なウェブサイトやアプリを作っても、制作物に対してあまり思い入れがなかったので、そのサービスが終了するって聞いても、どこか他人事のような気がしていました。とはいえ経験を積んでいくうちに、もっと本質的な部分からデザイナーが関わっていれば、もっと良いものが作れるのではないか、と思うことが増えてきたんです。

「その為には、深く事業戦略から関わっていく必要があるということに気づいて。そうでないとこのままじゃデザイナーがロボットと一緒になってしまうじゃないですか。そこで色々調べた時にUXデザインの大切さがわかってきたのが今です。正直、うちの会社は広告会社なので、デザインに対する意識は低かったんですよね」

Yamada Sho

運転手:「いくらスマホが流行っていたからといっても、全てのIT広告会社がオシャレでカッコいい広告を作っていたわけではない、ということですね。要するに、おたくの会社は今まで“変えよう”と思う人がいなかったと」

やましょー:「そうです。で、最初は社内でそれを解決しようと思ったんですけど、組織のクリエイターのトップに立つ遠藤が自分ごととして理解できていないとどんなに優秀な人を入れても辞めてしまうんじゃないか、って思ったんですよ。じゃあどうやったら理解をすることができるかということを考えて、だったら別の会社に突っ込んでしまったほうがいいんじゃないかとなって、遠藤を修行という名目で送り込んだんです

Endo Yui

えんどー:「え、そういう経緯があったんだ」

てっきり、飲み会の席で突発的に私を送り込んだのかと思った。そういう思いがあったらなら、はじめから私に相談してくれればよかったのに。でもこの人、さっきまで忙しそうだったのに、なんでこんな饒舌に喋るんだろう。

乗車をしてから15分は経っただろうか。あれから話はどんどん続いていく。この運転手は、私の話に興味があって聞いているのだろうか。それともただの時間つぶしなのだろうか。どちらにせよ、ここまで来たら私もちゃんと応えるしかない。

運転手:「遠藤さんって、隣の女性の方ですね。修行先から戻られ、今社内で何をされようとしているんですか?」

えんどー:「え、はい。あるサイトをリリースしようと思っていて。これまで私達は人から言われた“デザイン”しか制作してこなかったのですが、これからは自分で考え、伝える“クリエイティブ”を作っていきたいと思って、そのプロジェクトを企画しました。ADWAYSの約100人のクリエーターたちがそれぞれどんな人間なのか、どんなクリエイティブを手がけるのかを、サイトを通じて理解してもらえるものになっています。目に見える工程だけがデザインじゃなくて、どうやったら人の心を動かせるのかってところを考えたくて。」

やましょー:「……」

運転手:「ちなみに100人のクリエイターさんたちにその話をした時、反応はどうだったんですか?」

えんどー:「喜んでくれる人が多かったですよ。同じ思いや悩みを抱えていたメンバーもいて、自分の存在意義を示す機会が出来て嬉しい、って言ってくれる人もいました。ゆくゆくは、“あの人がいるからデザインをお願いしたい”とか“ここの会社に入社したい”なんて言われると嬉しいですよね」

ついさっき、その答えは“少し考えたい”と思い自分から話をすることは止めていたのだが、こう突っ込まれるとやはり話をしたくなってしまう。この運転手、かなりのやり手かもしれない。そういえば、ADWAYS CREATIVEのことはやましょーさんに伝えていなかったのだが、果たしてこの話を聞いてどう思っているのだろうか。

Taxi

運転手:「不躾な質問ですが……。やましょーさん、会社に戻られてからの遠藤さんってどうでしょうか? 一緒にそのメッセージを外に伝えようとされてらっしゃるんですよね。」

え。この運転手、そんなことまで聞いちゃうのか。ここに当人の私がいるのに。もし、やましょーさんが“遠藤は全然成長してなかった”なんて言ったら、私この密室空間にもう居られない。新規プロジェクトのことは、今日始めて話題に出したのに……。一体この運転手……何者だ。

やましょー:「そうですね。遠藤は……」

Taxi

運転手:「あ、こちらですよね。お待たせしました」

えんどー:「え?」

Taxi

運転手:「7,530円になります」

えんどー:「……。領収書ください」

All Member

やましょー:「遠藤さん、ごめん。会社に帰ってきてから、これからの話を全然してこなかったよね」

えんどー:「え、……はい」

やましょー:「正直なところ、遠藤さんが成長して帰ってくるって“確信”があって送り出したわけでもなかったから、ちゃんと向こうで修行できてたのかもわからなくって……。これからの話をどうやってなんて切り出そうか悩んでたんだけど、もう遠藤さんがしっかり考えてることが今わかったから、あとは頼んだよ」

えんどー:「……わかりました。でも、なんで忙しいふりをしていたんですか?

やましょー:「え?」

えんどー:「最近の忙しいヤツって、あれ嘘ですよね?」

やましょー:「それは……。忙しいには忙しいけど、ちょっと盛っていたかもしれない。どうしたら良いのかが分からなくて、強い態度で遠藤さんに当たっていたんだと思う。ごめん…

えんどー:「都庁のように器の大きい男になってください……」

やましょーさんは普段はとても優しくて器が大きい人だが、突発的に“ちっさい人間”になってしまうのが玉に瑕なのだった。それはそうと、私はタクシーの運転手にもう一つ伝えたいことがあった。

えんどー:「これから一緒に働きたい人は、クライアントが求めている課題を装飾的なデザインだけで解決するのではなく、もっと本質的なものが必要ということが理解できるデザイナーです。クライアントがどんな課題を持っているのかを考えることができ、デザインの力で解決したい、という方がいたら嬉しいなって思うんですよね

「なるほど……そうですか」とつぶやき、去り際にタクシーの運転手は私たちに向かってこう言った。

運転手:「人生は続いていく。終わりはない。あなたの人生に必要なのは、きっかけだ。自分の殻に閉じこもって生きるべきじゃない」

Taxi

運転手:「ありがとうございました。またのご乗車をお待ちしております」

えんどー:「こちらこそ、お世話様です。おやすみなさい」

「ちょっとカッコ良かったな、あのタクシーの運転手。最後の言葉、かなり響いたな……」。帰り道ずっとそう思っていた私は、家に帰ってもそのセリフが頭に残り、なんとなくネットで検索をかけてみた。

なんと先程のセリフは、タクシーをメインにした某人気映画で主人公が語っていた言葉に近かった。要するにあの運転手、ただの映画オタクだったのかもしれない。



おしまい。